【英語テクニカルライティング講座#2 無生物主語を無意識レベルで使いこなす】
(第0回の記事(上記リンク先)と、シリーズ中の記事の関連記事では、センセーショナルな内容があり得ますのでご注意下さい。
突然ですが、今日の記事ではいきなり、英作問題から初めてみましょう。 Tak石河
この電車に乗れば、天王寺駅に行くことができます。
これは、簡単です。こうですね? 洋平さん
もちろんそれで合っているけど、こういう表現もできるよ。 アメリカ人同僚 盟友Liam
なるほど…。表現自体は知っていたんですが、いざ言われてみると、パッと出てこない表現ですね。 洋平さん
今日は、英語特有の概念である、無生物主語について勉強しましょう! Tak石河
無生物主語とは?
無生物主語構文 (non-volitional subject sentence structure)とは、述部に動作を表す動詞を使っていながら、主語が意思を持たない無生物である構文を言います。 Tak石河
先程の例文だと、無生物であるThis train(この電車)が主語になっていますね。 綾香さん
そうですね。これは日本語にはない概念ですし、知っていたとしても、それを無意識レベルで使いこなすのは非常に難しいです。 Tak石河
無生物主語を使いこなすメリットは何ですか? 洋平さん
端的に言うと、ネイティブにとっては分かりやすいんだ。 アメリカ人同僚 盟友Liam
- ネイティブにとって分かりやすい表現である
- 表現が簡潔になる
- 他の表現よりも文章中に必要とする語数が減る
では、次から、無生物主語の練習を通じて、無生物主語に徐々に慣れていきましょう。 Tak石河
「人」を敢えて主語にしないことで無生物主語に慣れよう!
さて、冒頭の例でみた通り、人ではない物(無生物)が主語になるのは、日本語にはない発想なので、これを使いこなすには、敢えて「人」を主語にすることを禁止するレベルで修行を積まないとダメですね。 Tak石河
では、次の例文を、「人」を主語にすることを禁止して、無生物主語を用いて英訳してみよう! アメリカ人同僚 盟友Liam
各例文を(1)条件、(2)原因・理由、(3)時 の3グループに分けてみました。 Tak石河
(1)条件:「~すると」「~すれば」「~するとき」「~の場合」「~に関しては」
まず、条件の文脈で、無生物主語の練習をしてみましょう! Tak石河
条件の文脈って、具体的には、どういう場合なんですか? 洋平さん
例えば、次の語句を使って英語を書こうとした時に、ちょっとストップしてみて欲しい! アメリカ人同僚 盟友Liam
- if~(もし~としたら)
- in the case of~(~の場合には)
- when it comes to~ (~に関して言えば)
- as for~(~については)
※注 これらの語句が間違っているわけではありませんが、無生物主語の英文では、敢えて使わない方が良い場合が多いという意味です。
うわ…これ、僕普通に使っていますよ。これを使わないで書くことってできるんですか? 洋平さん
実は、先ほど述べた条件を示す語句は、日本人の英語には圧倒的に多いんです。なぜなら、人を主語にして、日本語に近い発想で書けるからですね。 ここでは、これらの語句を使いたい衝動をグッと抑えて、次の文章を英訳してみましょう。 Tak石河
この英訳で合っているんですが、無生物主語を使うと、より端的に書けますね。 Tak石河
この調子で次もいってみよう。 アメリカ人同僚 盟友Liam
人を主語にしないのであれば…「そのお金」=that moneyを主語にすればいいんですね! 綾香さん
できましたね。これも非常にナチュラルな表現です。 Tak石河
うーん、「~に関して言えば」はwhen it comes toだから…。こうでしょうか? 洋平さん
洋平くん、最初のNGリスト、when it comes to…をバッチリ使ってるよ。 綾香さん
ああ…!!意識していないと、いつものやり方に戻ってしまうものなのですね。 洋平さん
この例題についていえば、元々の日本語が意地悪だったですね(汗)
元の文章を次のように修正してみましょう。
Tak石河
→SNSの重要性、人気、需要が増しています。
分かった!次のようにすればいいんだ。 洋平さん
語数が半分以下になって、しかもわかりやすくなったね。 綾香さん
そうですね。このようにスッキリと表現できる上、元の英文よりもはるかに分かりやすくなっています。 Tak石河
では、次にいってみよう。次からは少し難しくなるよ。 アメリカ人同僚 盟友Liam
ううん、無生物主語…でも、可能性はpossibilityだから…。こうかな? 洋平さん
元の出題意図の通りの回答をしてくれてありがとう(笑)
これは難しいですね。大企業(a big company)を主語にしてみましょう。
また、可能性は、the possibilityとするのではなく、a big company will probably…と考えてみましょう。
Tak石河
無生物主語を使うことで、最初の原文から半分くらいに減りましたね! 綾香さん
この問題では、可能性=possibilityとしてしまうと、無生物主語では書けないね。一つの訳語にとらわれるのではなく、他の表現方法がないかを考えると、道が開けるよ。 アメリカ人同僚 盟友Liam
では、さらに応用問題をみてみましょう。 Tak石河
ではまず、出題者の意図にドはまり(笑)した回答例をみてみましょう。 Tak石河
さすがにここまで回りくどく書かないにしろ、こんな調子で思わず書いてしまうことはあるのはないでしょうか? Tak石河
ここでは、無生物主語と、いくつかのワザを使って、極限まで短く、分かりやすくした解答例を見てみよう! アメリカ人同僚 盟友Liam
この解答例で使ったワザはこちら! Tak石河
- 無生物主語(主語:a startup)を使用
- a start-up company→a startupに変更(companyは付けなくてもOK)
- possibility→will probablyに変更
- be unable to…→fail toに変更(fail toは、否定文を肯定文で表現できる、テクニカルライティングで重宝するワザです)
これも、語数を半分程度に減らすことができて、しかもわかりやすくなりますね! 綾香さん
これで、「条件」パターンの無生物主語は終了です。次は、「理由・原因」のパターンを見ていきましょう! Tak石河
(2)理由・原因「~ので」「~のために」
これは、まず以下の語句を使いたくなったら、ちょっと手を止めてみて、これらの表現を使わずに無生物主語で書けないかを検討してみて下さね。 Tak石河
- thanks to~(~のお陰で)
- because of~(~ので、~ために)
※注 これらの語句が間違っているわけではありませんが、無生物主語の英文では、敢えて使わない方が良い場合が多いという意味です。
うーん。よく使いますよ。これを使わずに無生物主語って…書けるんですか? 洋平さん
では、次の例題を見てみよう! アメリカ人同僚 盟友Liam
「…のお陰で」って見ると、反射的にthanks to…て書きたくなります。 洋平さん
Thanks to your advice, I was able to succeed.
もちろん英文自体には問題ないんですけどね。無生物主語を使った例をみてみましょう。 Tak石河
…あれ?「…のお陰で」のニュアンスはこれで出るんですか? 洋平さん
大丈夫です、これで十分伝わります。逆に、「…のお陰で」をどうしても強調したいのであれば、thanks to…を使うのがいいでしょうね。 Tak石河
上の文章が自然だと思うんですが…。 洋平さん
確かに、思わずこう書きたくなりますよね(笑)その誘惑をグッとこらえて、the incidence(その事件)を主語にしてみましょう。 Tak石河
なるほど…。nationwide publicityとすれば、無生物主語で書けるんですね。 綾香さん
そうですね。無生物主語を使うには、このように時として、表現の工夫や語彙力が必要となりますね。 Tak石河
これは、できそうな気がします。his overwork(働きすぎ)を主語とすれば…。’His overwork ruined his health.’ですね! 洋平さん
又は His overwork cost him his health.
正解です。ただここでは、cost(自動詞)も使えるようになると、さらに表現の幅が広がり良いです。 Tak石河
では最後に、「時」の無生物主語表現を見ていこう! アメリカ人同僚 盟友Liam
(3)時
これは日本人にとってかなり意外に思えると思いますが、日時も無生物主語として活躍します。 Tak石河
「…年」「…月」という日時が、何かの出来事の目撃者になるというのは、面白い発想ですね。 綾香さん
「時」の表現(例:「〇世紀」「〇年」「〇月」など)を見たら、最初の主語にできないかを考えてみよう!
まず、例題を見てみよう! アメリカ人同僚 盟友Liam
この例文では、the 19th century以外にも、他の無生物を主語にすることができます。
「時」の表現を必ず無生物にしないといけないわけではないですが、知っておくと表現の幅が広がり良いですね。
Tak石河
- Science and technology greatly progressed in the 19th century.
- Great progress was made in science and technology in the 19th century.
※厳密には、この2文だと、1番目Science and technology…の方が、簡潔なためより良いです。
In April, the number of bankruptcies was the third highest number of bankruptcies for that particular month in the postwar era.
これでもあっていますが、次のように、時を無生物主語にする方法も知っていると、より表現の幅が広がりますね。 Tak石河
うーん…。この「時」の無生物主語は、僕は最も慣れないですね…。 洋平さん
そうですね、気持ちは分かります。ただ、一端「時」を主語にできてしまえば、後は意外と書きやすいですよ。 Tak石河
またこの例題では、「前年同月比」に関連した表現もチェックしておこう。 アメリカ人同僚 盟友Liam
- increase by X% from the same month the year before (前年同月比よりX%増)
- decrease by X% on a year-on-year basis (前年同月比よりX%減)
無生物主語は、それ自体もそうですけど、無生物主語の使用で表現力が豊富になるのはとてもいいですね! 綾香さん
如何だったでしょうか?
今回の講座では、日本人には馴染みの薄い「無生物主語」について紹介しました。
是非皆さんの普段の英語でも、積極的に取り入れて下さいね!