【テクニカルライティング技術#1「XのY」という表現】
(第0回の記事(上記リンク先)と、シリーズ中の記事の関連記事では、センセーショナルな内容があり得ますのでご注意下さい。
英語の表現で、「XのY」という表現をする時に、「Y of X」ばっかり使って、文章がすごくまどろっこしくなることがあるんです。どうやったら同じパターンの表現を回避できますか? 洋平さん
確かに。英文で、以下のようにof…of…が続いている例文を見ると、「意味は分かるけどもっとスッキリ書けないかな…?」って思うわ。 綾香さん
例えば、以下のような例でしょうか? Tak石河
development of potential of employees(従業員の能力開発)
possession and development of weapons of mass destruction(大量破壊兵器の保有・開発)
(📖出典📖 英辞郎 on the WEB Pro)
そうそう、そんな感じです…! 洋平さん
今日の記事では、「X of Y」の効果的な表現を見てみよう! アメリカ人同僚 盟友Liam
- 「XのY」という表現を、ワンパターン(例:Y of X)で書いてしまうことのまどろっこしさを感じている方
- 「XのY」をスッキリと表現させたい方
「XのY」を表現する主要な3表現について
「XのY」を表す主な表現は、以下の3通りの表現があります。
Tak石河
Y of X
これは、「XのY」を英訳する際に、おそらく真っ先に思い浮かぶ表現だと思います。
Tak石河
メリット、デメリットをみてみよう! アメリカ人同僚 盟友Liam
「YのX」を示す丁寧で正式な表現。
名詞XとYの両方に、名詞の判断(数えられるか?冠詞が必要か?)が必要で、誤りが生じやすいこと。
ofを間に入れるので、概して長くなりがちである
丁寧で正式な表現なので、良いは良いんですけど、これだけだと冒頭の例のように、英訳しにくい場合が多々ありますね。 Tak石河
「名詞XとYの両方に、名詞の判断」というのはどういうことでしょうか? 洋平さん
例えば、「彼女は卒論で、糖尿病の研究をしています」という文章を英訳する時に、以下の*******に、「糖尿病の研究」を英語で入れてみて下さい。 Tak石河
ええと、研究はstudyで、糖尿病はdiabetesだから…study of diabetesですね…!! 洋平さん
大丈夫?studyもdiabetesも、名詞の判断(数えられるかどうか、単数形・複数形)が必要よ? 綾香さん
えっと…。うーん、自信ないです…。 洋平さん
正解は、studyは、この場合数えられる名詞なので、a study、
diabetesは数えられない名詞だから、diabetesのまま。
正しい英文は
She conducts a study of diabetes for her graduation thesis.
となる。
アメリカ人同僚 盟友Liam
名詞の判断については、英英辞書の活用―特に、Longman Online Dictionaryが効果的なので、丁寧にチェックするようにしましょう。 Tak石河
X Y
では次のXY表現のメリット・デメリットを見ていきましょう。
Tak石河
- 名詞(X)と名詞(Y)を羅列することによる、前の名詞(X)が後ろの名詞(Y)を修飾する表現。
- 前の名詞(X)が形容詞として働くため、名詞Xの数・冠詞の判断が不要になる
- あまり沢山の名詞を続けることはできない(目安として名詞3つまで)
- 関連性の低い名詞ばかりを並べると非常に読みづらくなる
では早速例として、「事業拡大計画」という表現を見てみましょう。 Tak石河
ええと…事業をbusiness、拡大をexpansion、計画を(the) projectとすると…
the project of expansion of business…でしょうか?
洋平さん
そうだね。合っているけど、ofが何回も続いてちょっと不自然だね。ここでは、the business expansion projectとスッキリ表現できる。 アメリカ人同僚 盟友Liam
この場合、businessは形容詞的にexpansion、expansionは形容詞的にprojectを修飾しているんですね! 綾香さん
すごいですね!この方法、とても便利じゃないですか。名詞をポンポン並べていくだけで形容詞的な使い方ができるのですね。
後、名詞の判断もYの方(この場合はthe business expansion projectのprojectの方)だけで良いので楽ですね。
洋平さん
そうなんです。ただ、この便利な表現にも弱点はあります。 Tak石河
ええと、名詞をどんどん続ければいいから… the global business expansion Asada project…でしょうか? というか、このプロジェクト名、何だかとてつもなく仰々しい名前ですね…。 これは浅田さんという人が手掛けたプロジェクトなのですか? 洋平さん
世界的に事業を拡張して、世界的に損害を出したプロジェクトらしいわね。当の本人の浅田氏は現在消息不明…と。
まあそれは別にどうでもいいんですけど。長すぎると分かりにくいわけですね。
綾香さん
そうだね。ここでは、さっきのY of Xと組み合わせて、
the Asada project of a global business expansionぐらいが妥当かな。
アメリカ人同僚 盟友Liam
ここでは、Y of Xの形にしたことで、a global business expansionと冠詞を付ける必要が出てくることにも注意しましょう! Tak石河
X’s Y
- ‘(アポストロフィ)とs(エス)を使って、所有を表している。
- Xは、原則として「人:でないといけない(ただし、擬人化できる場合を除く)。
※冠詞については、前の名詞Xにより判断される。
この表現、便利なので僕はしょっちゅう使っていました。人じゃないといけないんですね…。 洋平さん
「擬人化できる場合」って、どういう場合ですか? 綾香さん
少し例を見てみよう。
the Earth’s surface(地球の表面)
これは、地球を擬人化している。
アメリカ人同僚 盟友Liam
他には、時を表す名詞の場合には、
- Today’s article(今日の記事)
- Today’s big news(今日の大ニュース)
- Yesterday’s conference(昨日の会議)
- Monday’s earthquake(月曜日の地震)
といった使用はOKとされているようです。
Tak石河
というか、英語って無生物構文で色んな無生物が主語になっているくらいですし、細かいこと言わずに全部X’s Yで表現できるようにしたらダメなんですか? 洋平さん
私も気持ちとしてはそうしたいんです(笑)でも、実際のテクニカルライティングでは、この表現が使えるか・使えないかは個別にチェックしていく必要がありますね。
実は、このX’s YのXの擬人化がどこまでできるのかは、私自身も現在情報を集めている段階です。より詳しい情報が集まりましたら記事をアップデートします!
Tak石河
では、次から、様々な「XのY」の言い方についてチェックしてみよう! アメリカ人同僚 盟友Liam
「XのY」の色んな表現を実践してみよう!
新製品に対する顧客ニーズ
(1) need of customer for a new product
(2) customer need for a new product
(3) customer’s need for a new product
順に見ていこう! アメリカ人同僚 盟友Liam
これは、やりたいことはわかるんですが、needとfor a new productが離れてしまっているので、分かりづらい表現ですね。 Tak石河
英語のコツとして、修飾語と被修飾語の位置を極力近づけておく、というものがある。
ここでは、needとfor a new productは近づけた方が分かりやすい。
アメリカ人同僚 盟友Liam
それでは、need for a new product of a customer…とすればいいですか? 洋平さん
そうすると、今度はneedとa customerが離れてしまって、やはり分かりにくくなるね。 アメリカ人同僚 盟友Liam
それならは、以下の(2)か(3)の方が、余程自然な表現となってくるわけです。 Tak石河
これは、customerがneedにそのまま形容詞的にかかって、簡潔で分かりやすい表現だね! アメリカ人同僚 盟友Liam
個人的には、「新製品に対する顧客ニーズ」の(1)~(3)の表現の中では、簡潔で分かりやすいので、一番おすすめです。 Tak石河
(3) customer’s need for a new product→〇
この場合は、「X’s Y」タイプの表現で、X=customer(人)であるので使えます。
(2)と(3)だと、どちらの表現がいいんですか? 綾香さん
これは、どちらでもよいのですが…個人的には、(2)が最もスッキリしているので、好きな表現ですね。 Tak石河
ホコリの蓄積
次の3通りの候補が考えられますね。 Tak石河
(1) accumulation of dust
(2) dust accumulation
(3) dust’s accumulation
順にみていこう! アメリカ人同僚 盟友Liam
これは最も正式に書いた例だね。バッチリ! アメリカ人同僚 盟友Liam
個人的には、これもスッキリしていて好きな書き方です。 Tak石河
名詞を並べるだけで修飾関係が出せるって、分かりやすくていいですね! 綾香さん
ここでは、dustは形容詞的に使っているので、dustの冠詞の必要性や、単数・複数の違いなどに留意しなくて良いのが、見逃せないメリットですね。 Tak石河
これは、書きたくなる気持ちはわかるんですが、dustは人間ではなく、かつ擬人化も難しいので、この表現はやめておいた方がいいですね。 Tak石河
超並列コンピュータの性能
そもそも、超並列コンピュータって何ですか?
洋平さん
ごめんなさい、詳しいことは分かりません(汗)一応意味を下に載せておきます… Tak石河
超並列コンピュータとは
多数のマイクロプロセッサーを結合し、並列処理による高速化を図ったコンピュータ。一般に普及しているマイクロプロセッサーを使うことで、スーパーコンピューター並みの演算速度をもちながら、安価に抑えることができる。
(📖出典📖 デジタル大辞泉)
ただ、ここでは超並列コンピュータどうこうを言いたいのではなくて、このように形容詞が沢山くっついた場合の「XのY」という表現を見てみたかったのです。 Tak石河
「超並列コンピュータの性能」を前回の3通りの方法で訳してみると、次のようになるね。 アメリカ人同僚 盟友Liam
(1) the performance of the super parallel computer
(2) the super parallel computer performance
(3) the super parallel computer’s performance
それでは、それぞれがOKか見ていきましょう! Tak石河
これは問題なくいけます。 Tak石河
これ、意味は分かるんだけど…ただ、performanceの前に、(冠詞theを除いて)super parallel computerと、3語も前に来ているから…これ以上、名詞を出すのはちょっと苦しい感じがするな。 アメリカ人同僚 盟友Liam
つまり、これが仮に、
the super computer performance(スーパーコンピュータの性能)
the parallel computer performance(並列コンピュータの性能)
であれば、(冠詞のtheを除いて)”A B computer”の3語になるので、長さは問題ないということですね。
綾香さん
その通りです。目安ですが、「X Y」の修飾方法におけるXは、名詞三語(XとYを合わせて名詞3語以内)におさめておきましょう! Tak石河
これは、気持ちは非常によくわかるのと、いけそうな表現にも思えるのですが…。computerの擬人化は難しいので、これは避けておいた方がいいでしょうね。 Tak石河
でも、The super parallel computer performs well.(その超並列コンピュータの性能は良い)という無生物主語の文章はいけるんですよね?
computer’sが無理なのは、やっぱりちょっと納得がいかないです…。
洋平さん
そこは難しい所ですね。おそらく、X’s Yというのは、元々「人」が何か「物」を所有するのであって、「物」が「物」を所有するという概念は違和感があるからかもしれないですね(これはTak石河個人的な考えですが)。 Tak石河
冒頭の例の改善例
さて、ここまで来ると、冒頭の例の改善方法が見えてきたのではないでしょうか? Tak石河
- development of potential of employees(従業員の能力開発)
- possession of weapons of mass destruction(大量破壊兵器の保有)
こうすればいいわけですね! 綾香さん
development of potential of employees(従業員の能力開発)
↓
- 【Y of X + X Y型】development of employees potential(従業員の能力開発)
- 【X Y型】employees potential development(従業員の能力開発)
- 【Y of X + X’s Y型】development of employees potential(従業員の能力開発)
possession of weapons of mass destruction(大量破壊兵器の保有)
↓
- 【Y of X + X Y型】possession of mass destruction weapons(大量破壊兵器の保有)
その通り! アメリカ人同僚 盟友Liam
如何だったでしょうか?
「XのY」という表現は、あまり考えずに’Y of X’や’X’s Y’としてしまいそうですが、今回ご紹介した方法を組み合わせることで、スッキリとした分かりやすい表現にすることができます。
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